コーネル大 ワンシンク元教授の論文不正・辞任から考える研究チームの体質

コーネル大の大物研究者が6本のJAMA Networkの論文撤回後に辞任。不適切な統計処理やデータ操作を助長した研究チームの体質について考える。

2018年9月19日付けでJAMAに6本の論文撤回についての通知が掲載された。撤回の理由は論文不正。いずれもコーネル大学の栄養学研究の第一人者であるブライアン・ワンシンク元教授(Brian Wansink PhD) のチームからJAMA Network 内のジャーナルに掲載されたもので、その後ワンシンクはコーネル大学を辞任している。

何があったのか?

不正発覚の経緯の詳細は「研究倫理(ネカト)」に日本語で記載されているのでそちらをご覧頂きたいが、まとめると

· 2017年にオランダの大学院生がワンシンクの自身の研究チームに関するブログを読みp-hacking を暗喩していたワンシンクの研究手法に懸念を抱く

· オランダのチームからワンシンクの複数の論文でデータ操作や不適切な統計処理が行われていたことを示唆するpreprint が発表される

· 2017年4月にコーネル大学が内部調査の開始を発表 

· 2018年5月に、ワンシンクのJAMAに2005年に掲載された論文に関しての’Expression of Concern‘ が JAMAに掲載される

· 2018年9月にJAMA Network から、科学的妥当性が保証できないため6本の論文を撤回するという通知が掲載される。調査を受けてワンシンクはコーネル大学教授を辞任

という流れだ。

浮上していたのはt検定の結果が間違っている、等と単純なものから複数のアンケート調査で全く違う母体に行ったアンケートの回答者数が全て770だった、というデータ操作・捏造を示唆するものまで幅広い。

火付け役となったワンシンクのブログには何が書かれていたのか。

The Grad Student Who Never Said “No”’と題されているこの記事には彼の研究室で働いていた研究員達についての対比が書かれている。焦点が当てられているのは無償で彼のチームに来ていたトルコの客員研究員で、ブログでは彼女がいかに生産的で、ワンシンクの取ってくるデータを頑張って解析し論文を書きまくって帰っていった、ということが書かれている。ブログの主旨は彼女と他の彼のチームのポスドクの対比で、他のポスドク達はワンシンクのプロジェクトのオファーにノーと言い続けた結果、まったく論文が書けなかった、というようなものだった。

実際にオランダのチームに問題視されたのはp-hacking が行われていたことを示唆する ”There’s got to be something here we can salvage because it’s a cool (rich & unique data set.” という一文だが、まぁデータ解析のメンタリティーとして問題がありそうな雰囲気は否めないと思う。

僕が興味深いと思ったのは、自分の研究員についての批評を一般公開されている自身のブログに書いてしまったところから浮かび上がってくるワンシンクの研究室の体質だ。高インパクトの論文をバリバリ書いているチームにはありがちなのかもしれないが、生産へのプレッシャーがとても高い環境が作られていたのだと想像する。これが健全で意欲をかき立てるような適度なストレスなら良かったのだろうが、彼のブログ記事から見受けられるように、ポジティブな結果をなんとか掘り起こしてくる学生を賞賛し、その他の理由はどうであれ ‘no’ といったポスドク達をネット上でこき下ろすPI の作りだす研究室の体質は恐らく健全なものではなかったと推測する。

僕が思うアカデミアの不思議の一つに、論文に絶対的な価値が置かれているのに論文不正に対する防衛策がほとんど存在しない、というものがある。今回のような事件は氷山の一角で、ワンシンクが問題のブログ記事を書かなければ表面化していなかった かもしれないし、独自でかなりの時間と労力を検証に費やしたオランダのチームがいなければ問題にならなかったかもしれない。事実、2005年掲載論文の不正が発覚するまで13年かかっている。性善説的な前提があって成り立っているアカデミア・研究なのだが、不正をしようと思えば恐らく簡単にできてしまう。そしてその不正へのドアを開けるプレッシャーが閾値以上にかかれば、不正が起こってしまうのは割と必然なのかもしれない。もちろん、下が何らかの過ちを犯してもPIに上がる段階でピックアップされて正されればいいのかもしれないが、PIが「有為差アリ」を強く求めているメンタリティーを むき出しにしている様な環境では機能しないメカニズムだろう。

僕が今までに働いた尊敬するPIたちは絶対にネガティブなプレッシャーをかけなかったし、いつか自分で独立した研究チームを持てるようになったら、健全な体質を維持できるPIになれるように心がけたい。

最後にRetraction Watch という研究倫理や論文不正のニュースを英語でまとめているサイトがあるので紹介しておきたい。Twitter:@RetractionWatch.

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